部分最適という宿敵 〜効率と調和のジレンマ〜

組織における部分最適という宿敵をどのように駆逐したらよいのでしょうか。

組織は、分業により役割を専門特化させることにより、成員の習熟度を効率よく向上させます。その結果、全体として効率よく目的を達成できるようになります。

例えば、りんごを箱詰めしてお客さんに送る場合。
りんごでお客さんに喜んでもらい利潤を追求する人(経営層)、りんごを仕入れる人(購買)、完成形のデザインをする人(開発)、りんごを磨く人、箱を作る人、りんごを箱詰めする人(製造)、りんごをお客さんに売る人(営業)、りんごをお客さんに送る人(流通)、情報を収集し売れる仕組みを作る人(マーケティング)というように作業を分断します。

りんごを仕入れる人は毎日りんごの仕入れをやるので、りんごを仕入れる技術がどんどん向上していきます。他の作業も同様です。効率が上がってハッピーずくめのような気もします。しかし、一方、専門特化が進むと今度は不調和が生じてきます。なぜなら専門特化は、言い方を換えると、他のことに目がいかなくなるということだからです。つなり、隣の人や隣の部署と連携が取れなくなるということです。

本来、お客さんに与える価値を提供するためには、各部署、各人のベクトルが顧客価値創出に向けて一致している必要があるはずです。すなわち、各部署、各人の仕事は最も大きな組織目的のどこかに位置づけられなければなりません。にもかかわらず、専門特化が進むと、今目の前のことばかりに意識を集中するがゆえに、部門最適、個人最適に陥るリスクが高くなってきます。

りんごの例だと、開発がマーケティングの話を聞かずに独自のデザインに執着しコストがかさんでしまったり、営業が製造のキャパシティを考えず仕事を取りすぎてしまったりするわけです。

この解消には、組織の三要素である「コミュニケーション」が重要になります。コミュニケーションというと漠然としたやり取りとして捉えてしまいがちですが、この場合大切なのは「相手の立場に立つためのコミュニケーション」です。

相手の立場を経験することにより、今までの見方が一変することがありますが、本当に相手を理解するためには、相手の立場に身を置くのが一番です。開発が営業を経験することにより、営業がお客さんの要望に悩んでいることが分かりますし、営業が製造現場につくことにより、営業はいかに営業が無理なことを言ってくるかを理解します。

もともとの大きな目的は「りんごで喜ばせること」です。これを忘れて、セクショナリズムに陥るとき、組織の美点である専門特化による習熟度の向上は裏目に出るのです。相手の立場を知りその期待を知ること。これが組織の不調和を解消する一つの建設的な方法です。

そして、もっとも重要な期待は「お客さんの期待」です。これを原点に組織をデザインし続けることが、効率と調和のバランスを取る指針となります。